見つけた花は、息をしながら僕を抱いて天に落ちた。

 

 

誰かに出会いたかった。

だからぼくは服を着替えて自転車に乗った。

 

意味のないまま歩き続け、出会いを期待した。

出会ったところで声を出す勇気もないくせに、ぼくは出会いたかった。

 

見つけた花は、息をしながら僕を抱いて天に落ちた。

それは8月の最後の日。夏の暑さも小さくなって、曇りがかった少し寂しい日だった。明日からは高校生活最後の2学期が始まる。

その夏は後悔がたくさん残ってる。一番の後悔といえば、頑張れなかったこと。受験生だった僕は、勉強をすることなく夏を終えた。それが心の底から苦しかった。

 

僕はその後の人生を決める大事な時期を怠けて過ごしたのだ。取り返しのつかない罪を犯した気持ちだった。泣きたくて、泣きたくて、とても悲しかった。

たぶん大学にはいけないだろうなって、少しだけ予感した。それがまた悲しくて、ぼくは世界にひとりだけ取り残されたように感じていた。

 

ぼくはいつからこんなに怠け者になったのか、自分でも分からなかった。

あんなに猛勉強して県内屈指の進学校に入学したのに、それからは人が変わったかのように勉強をしなくなった。その癖が高3の夏まで続いてしまったらしい。

 

それでも勉強をしなければいけないことは分かっていた。なぜなら、“いい大学”に行けないからだ。いい大学に行けないと“いい会社”に就けない。

僕にとっての“いい人生”はその考えが全てだったから、そのいい人生を失おうとしていることが悲しくて、辛くて、どうしようもなかった。

言葉も分からない遠い国で、淋しくて冷たい駅に自分だけが取り残されたような気分だった。

 

 

誰とも会わずに過ごした夏だったからかもしれないし、違うかもしれない。たぶん違うかもしれない。

黒髪の乙女に出会って、恋に落ちることができたなら、どんなにいいだろうなって思った。そんなことはありえないけど。

 

でも僕は期待してみた。あそこなら誰かに会えるかもしれないから。それは地元にある大きな公園、野球場とかテニスコートもある広い公園だ。

そこなら、犬の散歩をしている黒髪の乙女がいるかもしれないし、僕と出会って恋に落ちるかもしれない。

もしそれが叶ったらすごく幸せだ。今の僕の暗い人生が全て変わるような気がする。そう思った僕は服を着替えて、自転車に乗った。

 

今はまだ17時、8月の最後といってもまだ夏本番、外は明るい。雲がかかってどんよりはしているが、暗いわけではない。まだ間に合う。最後の希望。

サッカーをして遊ぶ子どもたちや、散歩をしている老夫婦の姿が見える。ちらほら写る人影にほっとした気持ちもあった。

 

僕は漫画のような出会いを期待した。子犬の散歩をしている黒上の乙女と出会うんだ。そう思いながら必死に歩いた。

同じところを何度も何度も往復した。疲れたらすぐそこのベンチで休んで、また歩いた。途中泣きそうにもなったけど、僕は歩き続けた。

 

 

あれからもう2時間以上は経ったかもしれない。カラスの鳴く声が大きくなり、薄暗い空にコウモリの姿も見えてきた。僕はずっと同じところをうろうろしていた。

結局誰にも出会えなかったんだ。もう救いようがなかった。遠くの方からゴロゴロと音がして、すぐに雨が降ってきた。

 

誰にも聞こえるわけがないし、公園には僕を見てる人はいない。だからもう「消えろ」って思った。大きい声で叫んだ。失った夏と人生を恋しく思いながら大きな声でわめいた。

別に風邪を引いてよかったし、むしろこのまま風邪を引いて学校なんかなくなってしまえばいいと思った。心の底から冷たかったけど、泣くことに必死だったからどうでもよかった。

 

そんなことをしても意味はないのに、きっと何か変わるんじゃないかってまだ期待していた自分が恥ずかしかった。

君に出会えなかったんだから、僕にはもうチャンスはないだって悲しくなった。

 

 

涙を拭いて、ひどく濡れた靴を眺めた。身体もすごく冷えきっていた。もう帰ろう。そう思って駐輪場に向かおうとした。

そんなとき、雨に濡れて下を向いている小さな花があった。普段は道に咲いている花になんて興味ないけど、僕と同じようだったから少し話しかけてみたくなった。

 

その花は、どんな気持ちなんだろう。僕は知りたかったけど教えてくれるわけがない。でも、想像したらすごく悲しい。

だって、その花はたぶんずっと同じ場所で生きてくから。そして、一生ひとりで生きていくと思うから。大切な人に触れることもできず、恋に落ちることもできない。

同じ景色を見て、一生を終える。そんなの悲しいじゃないか。世界は不公平だ。僕の人生も同じ。何も変われないまま、このまま一生が終わるかもしれない。

 

そんなの辛すぎる。だから、せめて君には幸せになってほしかった。これはただの人間の醜いエゴかもしれない。でも、僕には耐えられなかった。君の一生がこのままなのは。

雨がひどく降る8月の最後の日、僕は君と一緒に遠くへ向かった。できるだけ遠くへ。だって、もっと色んな景色を知って欲しかったから。

 

見つけた花は、息をしながら僕を抱いて天に落ちた。

 

 

高3最後の夏-僕の実話